大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成元年(行ク)1号 決定 1989年5月10日

申立人 甲野太郎 外四名

被申立人 大阪市浪速区福祉事務所長 大阪市住吉区福祉事務所長

主文

本件申立をいずれも却下する。

申立費用は、申立人らの負担とする。

理由

一  申立人らの本件申立の趣旨及び理由は、別紙行政処分執行停止決定申立書及び意見書一、二各記載のとおりであり、被申立人らの意見は、別紙意見書(一)、(二)及び反論書各記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件記録によれば、次の事実が一応認められる。

(一)  児童福祉法(以下、「法」という。)二四条は、保護者において同法施行令九条の二所定の事由があり、児童を保育できない状況にあるときには、市町村が当該児童を保育所に入所させて保育する措置を採るべきことを規定している。そして、大阪市では、右入所措置に関する事項については、法二四条に基づき制定された大阪市保育所入所措置条例(昭和六二年条例第一六号)がこれを規定し、また、法三二条二項及び法や右条例の施行細則を定めた大阪市児童福祉法施行細則(昭和三一年規則第六四号)二条二項により、右事項を行う権限を福祉事務所長に委任している。

(二)  申立人らの保護にかかる各児童の氏名、生年月日、右児童に対して初めて法二四条所定の保育所入所処分(以下、「入所処分」ともいう。)が開始された年月日及びそのときの入所保育所名は、別表記載のとおりである。そして、右児童は、その後も右保育所で引き続き保育を受けていたところ、被申立人大阪市浪速区福祉事務所長は、申立人甲山を除く申立人らに対し、被申立人大阪市住吉区福祉事務所長は、申立人甲山に対し、いずれも平成元年三月三一日付けで入所措置の期間を同年四月一日から同年九月三〇日まで、保育所を申立人甲山を除く申立人らについては大阪市立小田町保育所、申立人甲山については大阪市立苅田南保育所とする旨の記載のある保育所入所決定通知を発した(以下、右の各処分を「本件各処分」という。)。

(三)  そこで、申立人らは、被申立人らを被告として、当裁判所に本件各処分の取消の訴えを提起し(当裁判所平成元年(行ウ)第二三号)、現在審理中である。

2  申立人らは、本件各処分は、被申立人らが従前なした入所処分のうち、児童を保育する保育所を変更する変更処分である旨主張する。

ところで、前記法、法施行令及び条例の規定の趣旨に照らすと、入所処分は、その時点における保護者側の一定の事由を要件とするうえ、市町村には一定の財政的制約及び施設面における物理的制約があることも明らかであるから、このような入所処分は、申立人らの主張するように、一旦なされれば特段の事由のない限り当該児童が就学年齢に達するまで継続されるものではなく、期限を含め措置の具体的方法については、法所定の保育の目的に反しない限度で措置権者の合理的な裁量に委ねられた行政処分であると解するを相当とするところ、本件記録によれば、昭和六二年法律第九八号による改正前の法に関して法二四条の定める入所措置の要件を具体化していた通達である「児童福祉法による保育所への入所の措置基準について」(昭和三六年二月二〇日児発第一二九号。但し、同通達は、昭和六二年一月一三日児発第二一号によつて廃止された。)には、児童の入所期限はこれを六か月以内とし、その後は更新等により適切な措置を行うべきであるとの規定があり、大阪市でも右通達の趣旨を踏まえ、六か月を入所期限として保育所への入所措置を行つてきたことが一応認められる。そして、被申立人らが申立人らに対して前記入所措置開始後の毎年四月一日付け及び一〇月一日付けで入所決定をしてきたことは、申立人らの認めるところであり、本件各処分が申立人らの児童の入所期間を六か月と定めたことも前記認定のとおりである。そうすると、本件各処分以前に申立人らに対し、毎年四月一日及び一〇月一日付けでなされた各入所措置は、単なる例文ではなく、いずれも期間を六か月とする入所処分であり、直前入所処分の期間満了による新たな入所処分が順次継続して行われてきたのであつて、本件各処分も、申立人ら主張のように、従前の入所処分のうち、保育所を変更する処分ではなく、直前の各入所処分の期間満了に伴う新たな入所処分と認めるべきであり、現行の前記条例や施行細則に入所措置の期間や更新手続に関する規定がないこと、前記通達が廃止されたこと及び本件記録により一応認められる同和保育所の特殊性も右判断を妨げるものではない。そして、こうした本件各処分の執行を停止しても、単に当該入所処分がなされなかつた状態を回復するに過ぎず、それ以上に申立人らの希望する保育所を入所先とする入所処分がなされたのと同一の状態を形成するものではないから、処分により生ずる回復困難な損害を避けるための有効な手段となりえないことは明らかである。

したがつて、申立人らの本件申立は、執行停止の申立の利益を欠くものである。

3  なお、申立人らは、仮に本件各処分が変更処分ではなく、新たな入所処分であるとしても、本件各処分の執行を停止すれば、被申立人らが申立人らの希望する保育所を入所先とする入所処分をすることが期待できるから、本件ではなお申立の利益がある旨主張する。しかしながら、行政事件訴訟法三三条四項は、執行停止決定について同条二項を準用しておらず、また、執行停止決定が当該行政処分それ自体を取り消すものではなく、あくまでも本案判決確定までのいわば保全的措置にすぎないことに照らすと、仮に、事実上被申立人らが右入所処分をする可能性があるとしても、そのことから本件で申立の利益を認めることはできない。したがつて、申立人らの右主張は、採用できない。

4  よつて、本件申立は、その余の点について判断するまでもなく理由がないので、これをいずれも却下することとし、申立費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 田畑豊 田中敦 黒野功久)

別紙行政処分執行停止決定申立書(但し、申立の趣旨を除く。)、意見書、反論書<省略>

別紙

行政処分執行停止決定申立書

当事者の表示 別紙のとおり<省略>

行政処分執行停止決定申立事件

申立の趣旨

一、被申立人大阪市浪速区福祉事務所長が一九八九年三月三一日付で申立人甲野太郎、同乙山春男、同丙原次郎、同丁野夏夫に対してなした別表(一)番号1乃至6記載の申立人らの各児童についての別表(一)従前保育所名欄記載の各同和保育所から大阪市立小田町保育所への変更処分の効力を本案判決確定に至るまでこれを停止する。

二、被申立人大阪市住吉区福祉事務所長が一九八九年三月三一日付で申立人甲山三郎に対してなした別表(一)番号7記載の申立人の児童についての別表(一)従前保育所名欄記載の同和保育所から大阪市立苅田南保育所への変更処分の効力を本案判決確定に至るまでこれを停止する。

三、申立費用は被申立人らの負担とする。

との裁判を求める。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例